日本では長期雇用や新卒一括採用といった慣行のもと、長期の就業体験(インターンシップ)が実施されていない現状があります。
諸先進国では長期の就業体験を踏まえ、労使ともに十分な見極めを行ったうえで就職が決まっているだけでなく、インターンシップによって得られる賃金は、学生にとって学びの継続のための重要な収入源となっています。また、インターンシップとして採用されるために、実践的なスキルを身につける・教育するインセンティブが学生・大学に働くほか、就業体験を踏まえて大学等での学びが深化することも見逃せない効果です。
このような状況を踏まえ、日本ではいわゆるバブル経済崩壊後、若年者の就職状況が悪化したことを契機に、アメリカを参考に政策的にインターンシップが導入されました。しかし、先述した慣行のもと、ポテンシャル採用を行った後に社内で育成を行う体制が確立されている日本では、採用のための広報手段として数日程度の短期の体験プログラムが支配的となりました。受け入れの負担、賃金の負担、教育効果の担保など、企業にとって負担が大きく、長期のインターンシップは日本で定着しているとは言い難い現状です。とくに日本企業の9割以上を占める中小企業にとっては負担感が大きく、仮にこれらの課題を克服したとしても知名度の不足からインターンシップに学生が集まりにくく、実施が難しい現状があります。
さらに、日本では教育目的でインターンシップが導入されたことから、日本のインターンシップ研究は教育効果に関するものがほとんどで、受け入れ企業に着目したものが不足していました。これまでの研究では、インターンシップは厚生労働省が提唱する「社会人基礎力」を向上する効果や進路決定率を向上する効果などがあり、期間が長いほど教育効果が高いことが明らかとなっています。そのため経済産業省は長期のインターンシップを推奨していますが、先述した課題により日本では長期のインターンシップが普及していません。そこで本研究では、数か月以上の長期インターンシップを受け入れている中小企業の先進的な事例から、「彼らは上記の課題をどのように解消し、長期インターンシップの受け入れによりどのようなメリットを享受しているのか」を明らかにすることを目的に、2社を対象としたインタビュー調査と、A社における1か月のフィールドワーク(エスノグラフィー調査)を実施しました。
結論の概要として、中小企業は長期就業体験を受け入れることによって、従業員育成効果、採用効果、自社にない専門知識・技術の獲得、事業成果を得られる可能性があり、これらが従業員による指導等のリソース消費や、参加学生への賃金支給、学生を募集するための費用といったコストを上回る可能性がある場合に実施されることがわかりました。また、実施形態や募集形態によって現れる効果に違いがあるため、標榜する効果に沿って実施形態を検討する必要性を示しました。
加えて、これまで日本企業では短期のインターンシップがCSR活動として実施されていたことに着目し、企業の経営戦略上、CSRからCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)への転換が重要視されている昨今の潮流を踏まえ、長期インターンシップは教育効果やキャリア支援といった社会的価値だけではなく、先述したメリットのような企業の経済的価値の創出も同時に行うことができ、「社会課題の解決によって経済的利益を実現する」もしくは、「経済的利益を追求することによって社会課題を解決する」ことの実践としても捉えられることを指摘しました。すなわち、長期インターンシップを経営戦略に位置付けることで、教育効果の高いインターンシップが普及するだけでなく、企業の利益も実現する好循環を生み出せる可能性を示唆しました。
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本研究において、社会科学系の研究の作法を身につけられた気がしています。社会について語ることは誰にでも可能ですが、学術的知見をもって批判的に文献にあたり、現地での調査を行いながら、生じている現象を説明することにずっと憧れていました。2年間の研究は苦しく難しくも楽しいものでした。
この2年間で数百冊の本を読み、数百本の論文を読み、自身がまだ読んでいない読むべき本が山のようにそびえています。
調査手法もまだまだ改善の余地があるでしょう。
引き続き、自分のペースで勉強や研究に取り組んでいきたいと願っています。ひいては、社会の暗黙知を取り出し還元する役割の一端を担うことで、この世に生きた証が残ればこれ以上の幸せはありません。
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本研究においては、石川県内のJ社、O社にインタビュー調査にご協力いただいたほか、山梨県のD社では1か月にわたり滞在させていただき、従業員のみなさまに多大な時間をいただいただけでなく、その間就業体験プログラムに参加していた学生の皆様にもご協力いただきました。厚く感謝を申し上げます。
また、本研究は自身の就職活動時に感じた違和感をきっかけに着想したものでした。
本研究が修士論文として結実したのは、決して私自身だけの力ではなく、研究室に受け入れ、指導してくださったI教授や研究室のみなさん、そして本論文に掲載できなかった調査も含め、快く調査に協力してくださった皆さまのおかげです。
感謝申し上げます。


